課題
・電子カルテシステムへの既存のリモートアクセス手法に制約があった ・スマートフォンで院内外から電子カルテシステムにセキュアにアクセスしたい ・ゼロトラスト製品と既存のリモートアクセスアプリの相互接続に課題
成果
既存電子カルテのモバイル利用にZscalerがオンリーワンの解決策
院内外で電子カルテなど院内情報システムに安全にアクセスでき業務効率化
iPhoneとZscalerをインフラにグループ全体の業務改善目指し横展開へ
社会医療法人財団 董仙会 恵寿総合病院 の概要
石川県七尾市の恵寿総合病院を中核に、医療、介護施設の運営に携わる社会医療法人財団董仙会は、早くからDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進してきた。医療・介護に携わるスタッフの働き方を改革し、人材の確保と高度な医療サービスの提供を両立させるためだ。そうした中で、電子カルテシステムや、院外からのリモートアクセスの仕組みを導入してきたが、パソコンとSSL-VPN用のトークンが必要な既存システムでは働き方改革に必要な機能を提供できなくなっていた。そこでスマートフォンを用いて、院内外からセキュアに病院情報システムにアクセスできるネットワークを構築。その際に求められるセキュリティの確保に、Zscalerのクラウド型のゼロトラストソリューションを導入した。
業界:
医療/製薬
本社:
石川県七尾市富岡町94番地
Size:
病床数:426床(一般病棟278床、HCU8床、回復期リハビリテーション病棟47床、地域包括ケア病棟46床、障害者病棟47床)
事例の詳細
医療現場の働き方改革に向けて ツールとしてのDX化を推進
石川県七尾市にある恵寿総合病院は、426床の総合病院である。この病院を支える医師は73人、看護師等の看護職は379人を数える。七尾市は県内主要都市の金沢市から遠く、常勤の医師や看護師を確保することは簡単ではない。そのため、医療従事者の働く環境を整備しようと1994年からIT化を積極的に進め、業務の改善に努めてきた。
恵寿総合病院理事長の神野 正博氏は、同院のIT化の歩みを次のように説明する。「1994年に診療材料や薬品をバーコードで管理する『SPD』(院内物流管理システム)を、1997年にはWindowsによるオーダーシステムを、いずれも日本で初めて導入しました。電子カルテの導入も率先して取り組み、病院が属する董仙会が運営する『けいじゅヘルスケアグループ』の病院や診療所、クリニックにも導入を広げてきました」と語る。2006年には日本で初めて医療施設と介護・福祉施設でカルテを統合して情報共有を可能にしたほか、2014年にはシンクライアントシステムの導入、SSL-VPNを利用した病院外からの電子カルテ閲覧機能の提供を開始した。
医師、看護師、リハビリ療法士、管理栄養士、薬剤師、医療秘書、入退院管理センターといった役割を超えて情報を共有し、患者に必要な業務を自律的に行えるようにすることで、個々の業務負荷が減るという考えだ。
リモートアクセスをスマホに拡大 セキュリティと利便性の両立が鍵
リモートアクセスの導入は、「医師が外部からも電子カルテを閲覧でき、指示が出せることからとても有効でした」(神野氏)。ただし、セキュリティを確保するため、パソコンとワンタイムパスワードを生成するトークンを持っている医師などしか利用できないという制約があったという。電子カルテの情報を扱うため、高いセキュリティが求められるからだ。しかし、手軽さを損なうような仕組みでは利用は広がらない。安全性と利便性を両立できる仕組みが求められた。
そこで、スマートフォン(iPhone)を導入する方針を決めた同院だったが、既に導入している電子カルテシステムのモバイル対応版を利用して、院内外のiPhoneからセキュアなアクセスを実現することと、ナースコール・システムとiPhone連携が課題となった。
当初、恵寿総合病院では、あるゼロトラストセキュリティ製品の利用を想定していた。院内外での利用を想定した場合に、院内のシステムを安全とみなす境界型防御ではなく、すべてのアクセスについて認証するゼロトラストセキュリティが有効だと判断したためだ。ところが検証を進めると、検討中の製品の利用は難しいことがわかった。導入するモバイル対応版の電子カルテシステムは、iPhoneなどのモバイル端末上で専用アプリを利用するのだが、当初想定していた製品はブラウザーベースのアクセスしか許容できなかったためだ。
次に目をつけたのがゼロトラストセキュリティで導入実績があったZscalerだった。SSL-VPNの代替となるクラウド型のリモートアクセスソリューションを提供するZscaler Private Access(ZPA)と、インターネットへのセキュアなアクセスを提供するZscaler Internet Access(ZIA)を併用することで、導入するiPhoneをNewtons Mobile2のサーバーにセキュアに接続し、さらにインターネットへの安全なアクセスも可能にする。ベンダーが検証した結果、モバイル版電子カルテシステムのアプリに対してもZscalerは有効に機能することがわかった。
恵寿総合病院側でも、「Zscalerを使うことで高いセキュリティを確保しながら、リモートアクセスで業務が行えることがわかりました。もはや選択肢としてZscaler以外は考えられませんでした。Zscalerでなければ我々の計画は実行できなかったのです」(神野氏)。
iPhoneが情報共有ツールになり 安全を担保しながら業務がスムーズに
Zscaler導入によりセキュリティ確保が実現したことで、恵寿総合病院では2023年4月に520台のiPhone運用を開始、「電子カルテ(Newtons Mobile 2)とナースコールのモバイル化」を実現した。同院がiPhone導入で実現した機能は「トークルーム」「データ参照」「画像参照」「カルテ記載」「病棟業務(+音声通話)」などだ。
「トークルーム」は、いわゆるチャットサービスを医療現場に適合させたもの。神野氏は「入院した患者さんごとにトークルームを作ります。情報を医師や看護師、栄養士、リハビリ療法士などがN対Nでトークできることで、情報の共有がスムーズになります。職場ごとのトークルームなどを含め、約500ルームを運用しています」と語る。
電子カルテなどの院内情報システムとの連携による機能が、「データ参照」「画像参照」「カルテ記載」の3つだ。「データ参照」では検査のデータを参照し、患者ごとのトークルームへの記載ができる。「画像参照」は、レントゲンやCT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像診断)の画像をiPhoneから確認できる機能。特にセキュリティが求められる用途である「カルテ記載」は、iPhoneからカルテへの記載をテンプレートで容易にできるようにした機能。音声入力をサポートするほか、写真の保存も可能だ。画像参照は当初の提供機能には含まれていなかったが、iPhoneの活用に慣れた医師などからの要望で追加することになった。
「病棟業務」では、看護師の仕事を整理して、個人の1日の仕事を参照できるようにした。同時に従来は専用機器で受けていたナースコールを、iPhoneで受けられるようにした。「既存のナースコールシステムはiPhoneとの直接連携ができず、ゲートウェイ機器を入れて実現しました」と神野氏は苦労を語る。また、病院の内線システムも更新し、場所を問わずにiPhoneで内線・外線とも受けられる利便性を提供した。
iPhoneから外部ネット接続を許可へ グループへのインフラの拡張を検討
iPhoneを導入したことで、最も広く効果が現れているのが、トークルームの運用だ。神野氏は「患者さんごとに設けたトークルームを使って、医師は場所を問わずに必要な情報が得られますし、看護師などにとってもトークルームに書き込んでおけば医師に連絡できるので便利です」と語る。院内外を問わず、iPhoneによって多くの業務を完遂できる環境を提供できたことで、働き方改革が一歩前進することにつながった。「医師は学会などの出張があるほか、自宅が遠隔地にある場合も少なくありません。出張先や自宅でもiPhoneさえあれば患者さんの情報を見ながら指示が出せることは大きな働き方改革です」(神野氏)。
Zscalerのクラウド型サービスを導入したことで、ゼロトラストの環境維持にVPN装置などの運用保守が不要となり、運用管理が容易になった。
また、セキュリティを担保したネットワークの構築により、同じiPhoneからインターネットへのアクセスも可能になる。「医師などからは、インターネット上の医療情報へのアクセスの要望が高く、Zscaler Internet Accessの機能を利用してセキュアなインターネットアクセスを2024年2月より提供を開始しました」(神野氏)。
足下では、安全と利便性を担保したネットワークへのiPhoneアクセス環境を、グループの介護施設などに導入する横展開も始まる。「未来の医療・介護の世界を先取りしたいと思います」と神野氏。DX推進によって地域の医療・介護の充実を目指す同氏の構想をZscalerが支えていくはずだ。
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